ISTQB Test Manager(テストマネージャ)認定試験の「Chapter 2:Managing the Product」では、テスト見積もり(Test Estimation)に関する重要なテーマが扱われています。
この記事では、その中でも特に重要な 「2.2.2 テスト工数に影響を与える要因(Factors Influencing Test Effort)」 について、具体例を交えてわかりやすく解説します。
🔍 テスト見積もりとは?
まず前提として、テスト見積もり(Test Estimation) とは、
「あるプロジェクトやリリース、またはイテレーションで、テストを完了するために必要な作業量(工数)を予測すること」です。
たとえば、テストマネージャは次のような判断を行います:
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どのくらいのテストケースを準備すべきか
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どのくらいの人員・期間が必要か
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自動化やツール導入によるコスト削減は見込めるか
これらを正確に見積もるためには、複数の要因(Factors) を考慮する必要があります。
🧩 テスト工数に影響を与える5つの主要要因
テスト工数に影響する要因は大きく以下の5つに分けられます。
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プロダクト要因(Product Factors)
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開発プロセス要因(Development Process Factors)
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人的要因(People Factors)
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テスト結果要因(Test Result Factors)
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コンテキスト要因(Test Context Factors)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
① プロダクト要因(Product Factors)
テスト対象のプロダクト自体が、見積もりに直接影響を与えます。
たとえば次のような要素です:
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テストベースの品質(要求仕様書の明確さ・完全さ)
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プロダクトの規模(画面数、機能数、データ量など)
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ドメインの複雑さ(医療、金融、自動車など)
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非機能要件(性能・セキュリティ・信頼性などの品質特性)
💡 具体例:
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Eコマースサイトの場合:
主な機能は「商品検索」「カート」「決済」「配送」。
機能は多いが、ドメインリスクは比較的低い。
→ テスト工数は“中程度”。
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**自動車の安全制御システム(Automotive Safety System)**の場合:
命に関わるため、ISO 26262などの安全規格に厳密に準拠が必要。
→ ドキュメント量・レビュー回数・テストレベルが増え、工数は“数倍”に。
結論:
「何をテストするか」が変われば、必要な労力もまったく違うのです。
② 開発プロセス要因(Development Process Factors)
次に重要なのが、どのように開発しているかです。
つまり、採用している SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル) やツール環境などが影響します。
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開発モデルの種類(ウォーターフォール、アジャイルなど)
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組織の成熟度(プロセスの安定性・標準化)
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ツール・自動化環境の有無(CI/CD、テスト自動化、テスト管理ツールなど)
💡 具体例:
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ウォーターフォール開発:
テストは開発後に一括実施されるため、期間が短く集中する。
→ バッファが少なく、再テスト対応も含める必要あり。
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アジャイル開発:
テスターはスプリントごとに参加し、自動化と継続的テストが前提。
→ 準備段階では工数が増えるが、長期的には効率化。
③ 人的要因(People Factors)
チームのスキル・経験・モチベーションも大きな影響を与えます。
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チームメンバーのスキルレベル
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過去の類似プロジェクト経験
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休暇・祝日などの人的リソースの変動
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メンバーの定着率やモチベーション
💡 具体例:
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経験豊富なQAエンジニアが多ければ、作業は早く正確。
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しかし新人が多い場合、教育コストが増加し、見積もりは増加。
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また、長期プロジェクトではメンバーの有給・体調不良も想定すべき。
結論:
「人はリソースではなく、変動する要素」。
テストマネージャは、チーム構成の変化を織り込んで見積もりを行う必要があります。
④ テスト結果要因(Test Result Factors)
意外に見落とされがちなのが、テスト結果そのものが工数に影響するという点です。
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発見される不具合(Defects)の数と重大度
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不具合修正後の再テスト(Retesting)・リグレッションテストの有無
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バグトラッキング・報告作業の量
💡 具体例:
1つのテストケースが失敗した場合、次の作業が発生します:
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不具合報告(Defect Logging)
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修正確認(Retesting)
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影響範囲の再確認(Regression Testing)
結果として、1つの失敗テスト=約4倍の工数がかかることもあります。
つまり、不具合の多いプロジェクトほど見積もりは膨らむのです。
⑤ コンテキスト要因(Test Context Factors)
最後に重要なのが「コンテキスト(Context)」、つまりプロジェクトや組織の状況です。
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チームの分散(オンサイト/オフショア)
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開発拠点数や時差の有無
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業界特有の規格やガイドライン
💡 具体例:
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自動車業界(Automotive):ISO 26262(安全性)準拠が必要
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金融業界:PCI DSS(セキュリティ基準)対応が必要
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医療分野:FDA認証やトレーサビリティ文書の維持が必須
このような規制・文化・チーム構造などの違いが、コミュニケーションコストやレビュー回数を増やし、結果的に工数を押し上げます。
🧮 テスト見積もりの精度を高めるポイント
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過去プロジェクトの**履歴データ(Historical Data)**を活用する
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チームのスキル分布と休暇計画を考慮する
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失敗テスト時の再作業も見積もりに含める
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プロダクトと開発モデルに応じて見積もりモデルを変える
✅ まとめ
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要因カテゴリ |
主な内容 |
工数への影響例 |
|---|---|---|
|
Product |
規模・品質・ドメイン |
大規模・安全性重視の製品ほど工数増 |
|
Process |
SDLCモデル・ツール環境 |
自動化導入で初期工数増・長期削減 |
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People |
スキル・休暇・経験 |
経験不足・離脱リスクで工数増 |
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Test Result |
不具合数・再テスト |
失敗テストは最大4倍の工数 |
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Context |
業界特性・拠点分散 |
法規制・時差で工数増加 |
💬 まとめのひとこと
テストマネージャが正確な見積もりを行うには、
「単なる数字合わせ」ではなく、全体の背景と影響要因を理解することが欠かせません。
プロジェクトの性質、チームの状態、そして品質目標。
これらを総合的に考慮して初めて、現実的で信頼できる見積もりができます。

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