【ISTQB /JSTQB ALTM 3.0解説】リスクベースドテストの成功指標と課題を理解しよう

JSTQB Advanced Level Test Management 3.0

はじめに

ISTQB Advanced Level Test Management(テストマネジメント)では、**リスクベースドテスト(RBT: Risk-Based Testing)**が非常に重要な位置づけを持っています。

今回のテーマ「Success Metrics and Difficulties with Risk-Based Testing(リスクベースドテストの成功指標と課題)」では、

・リスクベースドテストをどう評価するか

・どのような課題が起こりやすいのか

を具体的に学びます。

この記事では、内容をわかりやすく整理しながら、実際のプロジェクトでの適用例も交えて解説します。


リスクベースドテストの「成功指標(Success Metrics)」とは?

計測できないものは改善できない

リスクベースドテストの成果を振り返る際、最も大切なのは「定量的に評価できるかどうか」です。

「うまくいった気がする」ではなく、数字や指標で効果を測ることが必要です。

例えば、以下のような質問で評価できます:

  1. 関係者(ステークホルダー)は適切に関与していたか?

     リスク分析には、開発・QA・PM・顧客代表などが関わるのが理想です。

     →もし関与が不足していた場合、見落としや偏りが発生していた可能性があります。

  2. 重大な欠陥は早期に検出されたか?

     初期段階で高リスクな不具合を発見できたなら、修正コストは大幅に削減できます。

     →逆に、後半になって重大バグが見つかるなら、リスク分析やテスト計画に課題があったかもしれません。

  3. テスト結果をリスクの観点で報告できたか?

     単に「テスト完了」ではなく、

     > 「高リスク領域のうち80%をカバーし、残り20%はリリース後に監視」

     といったリスクベースの報告ができると、経営層にも説得力があります。

  4. スキップしたテストケースは、本当に低リスクだったか?

     スケジュールの都合でテストを省略する際、その判断が妥当だったかを確認します。

     →スキップした項目にリスクが残っていなかったなら、正しい優先順位づけができた証拠です。


リスクベースドテストで直面する「主な課題」

リスクベースドテストは非常に有効な手法ですが、実際の現場ではいくつかの落とし穴があります。

ここでは代表的な課題とその対策を紹介します。


① リスクの影響度・発生確率の見積もりが難しい

リスクの「インパクト(影響度)」と「ライクリー(発生確率)」を正しく見積もるのは簡単ではありません。

経験不足のチームでは、過小評価または過大評価してしまうことがあります。

解決策:

  • 過去プロジェクトの履歴データを参照する

  • 経験豊富なステークホルダーを巻き込む

  • 定性的(High/Medium/Low)評価ではなく、数値スコア化する


② 短期的なプレッシャーでリスク分析が形骸化する

スケジュールや納期に追われると、リスク分析が「とりあえずやっただけ」になりがちです。

解決策:

  • 定期的にリスクレビュー会議を開催

  • スプリントごとに見直す(アジャイルでは特に有効)

  • 「時間がないからやらない」ではなく、時間がないからこそ優先度を見直す姿勢が重要


③ 「Déjà Vu(デジャヴ)」的なリスクの繰り返し

毎回同じようなリスクを登録していて、新しい視点が得られていないケースもあります。

→「形式的なリスク分析」に陥っているサインです。

解決策:

  • 毎回同じメンバーだけでなく、異なる視点の関係者を参加させる

  • リスク一覧をアップデートし続ける(「これはもうリスクではない」と判断する勇気も必要)


④ 重要なリスクの見落とし(Key Risks Missed)

逆に「見慣れすぎて気づかないリスク」も発生します。

原因の多くは、不適切なメンバー構成知識不足です。

解決策:

  • プロジェクト初期にリスクワークショップを実施

  • 各ドメイン専門家から意見を集める

  • 新人や異分野の視点も積極的に取り入れる


⑤ ステークホルダーの入れ替わり

プロジェクト期間中に担当者が変わると、リスク情報が引き継がれないことがあります。

また、プロジェクトの進行に伴い新しいリスクも発生します。

解決策:

  • リスク分析を継続的・反復的に実施(1回で終わりではない)

  • 主要マイルストーンごとに見直す

  • リスクログ(Risk Register)を常に最新に保つ


実践例:アジャイル開発におけるリスクレビュー

アジャイルでは、各スプリントで新しいユーザーストーリーが追加されます。

そのため、スプリントプランニング時に毎回リスク分析を行うことが効果的です。

例:

  • 新機能AのストーリーでAPI変更がある → 既存システムとの互換性リスク

  • 機能BでUI大幅変更 → ユーザー混乱によるUXリスク

これらをチーム全員で共有し、リスクレベルに応じてテスト優先度を決定します。


まとめ

項目

ポイント

成功指標

リスク分析の効果を定量的に評価する(数値・質問形式)

主な課題

評価の難しさ、短期圧力、リスクの繰り返し、重要リスクの見落とし、担当者の交代

解決策

継続的なレビュー・ステークホルダーの適正な関与・過去データ活用

最も重要な考え方

「リスク分析は一度きりではなく、継続的に更新すること」

まとめの一言

リスクベースドテストは「やり方」よりも「継続的な改善」が鍵です。

数値で効果を測り、課題を明確にして、次のプロジェクトやスプリントに活かしていきましょう。

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