テストプロセス改善(Test Process Improvement)は、ソフトウェア品質を向上させる上で欠かせない活動です。
前回の記事では「モデルベースの改善(TMMi / TPI Next)」を紹介しましたが、今回は「分析的(Analytical-based)」なアプローチについて解説します。
🔍 分析的プロセス改善とは?
**分析的プロセス改善(Analytical-based Test Process Improvement)**とは、
自社のプロジェクトデータを分析してテストプロセスを改善する手法です。
TMMiやTPI Nextのように「業界標準と比較するモデルベース型」とは異なり、
分析的手法は**自社の実データ(定量的・定性的データ)**をもとに問題を洗い出し、改善策を立てます。
💡つまり、「自分たちの失敗や成功から学び、次のプロジェクトをより良くする」ためのアプローチです。
📊 データの種類:定量データと定性データ
分析的手法では、主に2種類のデータを扱います。
1. 定量データ(Quantitative Data)
数値で表せるデータです。例:
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実行したテストケース数
-
発見された欠陥数
-
テストカバレッジ率
-
各テストレベル(単体・結合・システム)での欠陥検出率
例:単体テストで10件、システムテストで50件の不具合を発見。さらにそのうち20件は単体テストで見つかるべき欠陥だった場合、「単体テストの品質が低く改善の余地がある」と分析できます。
2. 定性データ(Qualitative Data)
人の意見や感覚に基づくデータです。例:
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「テストケースがわかりづらかった」
-
「不具合報告の再現手順が不十分だった」
-
「開発者との情報共有が遅れた」など
これらの情報は、レトロスペクティブ(振り返り会議)やレビュー会議から収集できます。
🧠 主な分析的手法(3つのアプローチ)
分析的な改善では、以下の3つの代表的なアプローチが活用されます。
① 根本原因分析(Root Cause Analysis:RCA)
問題の「根っこ」を突き止める手法です。
単なる「症状」ではなく、「なぜそれが起こったのか?」を探ります。
✅ 例:
-
問題:「テストの後半で大量のバグが見つかった」
-
表面的原因:「テスト開始が遅れた」
-
根本原因:「要件が曖昧なまま設計が進められたため」
RCAでは、「なぜ?(Why)」を5回繰り返す「5 Whys」や、
**魚の骨図(フィッシュボーン図 / Cause-Effect Diagram)**を使って原因を可視化します。
これにより、再発防止に直結する具体的な改善が可能になります。
② メトリクスと指標分析(Metrics, Measures & Indicators)
プロジェクトのパフォーマンスを定量的に評価する手法です。
「どの工程で何がうまくいっていないのか」を数字で把握します。
✅ 例:
-
欠陥検出率(Defect Detection Percentage)
-
テストケース実行効率(Test Execution Efficiency)
-
不具合修正の平均リードタイム
-
再オープン率(Reopen Rate)
たとえば、結合テストでの欠陥検出率が高く、単体テストでの発見率が低い場合、
「単体テスト設計の改善」や「コードレビューの強化」が改善ポイントになります。
メトリクス分析を定期的に行うことで、改善の優先順位付けが明確になります。
③ GQM(Goal Question Metric)アプローチ
GQMは、「目的 → 質問 → 測定項目」の3段階で構成されるフレームワークです。
|
ステップ |
内容 |
例 |
|---|---|---|
|
Goal(目的) |
何を改善したいのか? |
テスト設計の品質を向上させたい |
|
Question(質問) |
どうすればそれを確認できるか? |
テストケースは仕様を十分にカバーしているか? |
|
Metric(測定) |
どのデータを取ればいいか? |
カバレッジ率、欠陥密度など |
GQMの特徴は、ステークホルダー(開発者・顧客・マネージャーなど)の視点を重視する点です。
彼らの意見を取り入れ、改善すべき領域を明確化します。
例:開発者が「不具合報告の情報が不足している」と指摘した場合、「欠陥報告テンプレートの改善」や「再現手順のチェックリスト化」が有効な改善策になります。
🔁 レトロスペクティブとの関係
**レトロスペクティブ(Retrospective)**とは、プロジェクト終了後に行う振り返り会議のことです。
「何がうまくいったか」「何が問題だったか」をチーム全体で共有し、定性データを収集します。
この情報は、分析的改善の材料として非常に有用です。
チームの意見+数値データの両方を組み合わせることで、より現実的な改善施策を導けます。
🚀 分析的アプローチの利点
|
項目 |
メリット |
|---|---|
|
データドリブン |
感覚ではなく数値・事実に基づいた改善ができる |
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組織特化型 |
自社の文化・課題にフィットした改善が可能 |
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継続的改善 |
定期的な測定によりPDCAを回せる |
|
モデルベース併用可 |
TMMi/TPI Nextと併用することで効果最大化 |
💬 まとめ
分析的テストプロセス改善は、
「自分たちのプロジェクトデータを使って、自分たちのやり方を進化させる」ための手法です。
-
RCA(根本原因分析) → 問題の根っこを探る
-
Metrics(メトリクス分析) → 数字で改善点を把握
-
GQM(ゴール・クエスチョン・メトリク) → 目的に沿った改善を計画的に行う
これらを組み合わせることで、より現実的で持続可能なテストプロセス改善が実現します。

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