ソフトウェアテストの世界では、**「どのくらいのテストが必要か?」**を正しく見積もることが、プロジェクト成功のカギになります。
今回のテーマは ISTQB Test Management v3.0 チュートリアル34「Estimating Activities Testing Will Involve(テスト活動の見積もり)」 です。
この記事では、テストマネージャーがどのように見積もりを行うのか、その考え方や手順、実際のプロジェクトでの応用例まで詳しく解説します。
🔍 テスト見積もりとは?
テスト見積もり(Test Estimation)とは、
**「テスト活動を完了するために必要な時間・コスト・労力を予測するプロセス」**です。
これは、単なる数字合わせではなく、プロジェクトの品質とスケジュールを左右する重要な管理活動です。
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どのくらいのテストケースを書くか
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実行にどれくらいの時間がかかるか
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どんなリソース(人員・ツール・環境)が必要か
これらを総合的に見積もることで、現実的なテスト計画が立てられます。
🧩 テスト見積もりの3つの要素
見積もりを構成する基本要素は以下の3つです。
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要素 |
説明 |
例 |
|---|---|---|
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Effort(工数) |
テストに必要な作業量を示す。人時(person-hour)やストーリーポイントで表す。 |
テストケース100件 × 平均30分 → 50時間 |
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Time(期間) |
テストを完了するまでのカレンダー上の時間。 |
1週間で回すテストサイクルを3回実施 → 約3週間 |
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Cost(コスト) |
テストにかかる予算。ツール、環境、人的リソースなどの費用。 |
クラウドテスト環境利用料+人件費+ライセンス費用 |
これらは互いに密接に関係しており、どれか一つを変更すれば他の要素にも影響します。
この関係を示すのが「時間・コスト・品質のトライアングル」です。
⚖️ 時間・コスト・品質のトライアングル
プロジェクト管理の基本概念として、以下のような関係性があります。
「時間」「コスト」「品質」はトレードオフの関係にある」
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時間を短縮すれば、コストが上がるか、品質が下がる
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コストを削減すれば、テスト期間が延びるか、品質に影響する
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品質を上げたければ、時間とコストの増加を覚悟する必要がある
つまり、テストマネージャーは3つのバランスをとりながら見積もることが求められます。
📋 見積もりの手順
テスト見積もりを行う際の一般的なステップは以下の通りです。
1. テスト活動の洗い出し
まず、テストレベル(単体・結合・システムなど)と具体的なテストタスクを明確にします。
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テスト設計
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テスト実行
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不具合報告と追跡
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回帰テスト
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ドキュメンテーション
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ミーティング・コミュニケーション活動
2. 各タスクの工数を見積もる
過去のプロジェクトデータやチームの経験をもとに、「どのタスクにどれだけ時間がかかるか」を予測します。
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例:テストケース設計:40時間、実行:60時間、レポート作成:10時間など。
3. リスクや不確定要素のバッファを設定
予想外のバグや変更要求が発生する可能性を考慮し、**バッファ(余裕時間)**を加えます。
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通常、全体の10〜20%を予備時間として確保。
4. コストとスケジュールを算出
最後に、必要な工数と期間をもとに全体のコストを算出し、プロジェクト計画書に反映します。
🧠 見積もりに影響する主な要因
テスト見積もりは、単にテストケース数だけでは決まりません。以下のような要因が影響します。
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プロジェクトの規模と複雑さ
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チームのスキルレベルと経験
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利用するツールや自動化の有無
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テスト環境の準備状況
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要件の変更や顧客からの追加リクエスト
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他チーム(開発・運用)との依存関係
これらを適切に考慮しないと、**「見積もりのズレ」**が発生し、後工程に大きな影響を与えます。
💡 Agile開発における見積もりの特徴
Agileプロジェクトでは、テストは開発と同じサイクルの中で実施されます。
そのため、テストだけを別で見積もるのではなく、チーム全体でストーリーポイントを見積もるのが一般的です。
例:
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開発+テスト含めて「このユーザーストーリーは5ポイント」
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チーム全員で見積もりを行い、短期間で調整しやすくする
このように、アジャイルではテストもチーム全体の一部として扱う点が特徴です。
⚙️ よくある課題と改善のヒント
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課題 |
改善のヒント |
|---|---|
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見積もりが過小でスケジュール遅延 |
過去データを活用し、バッファを確保する |
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見積もり根拠が不明確 |
各タスクの根拠(過去実績・経験)を明示する |
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要件変更による再見積もり漏れ |
チェンジリクエストをトリガーに再見積もりを行う |
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チーム間の認識ズレ |
見積もり会議で全員が前提条件を共有する |
🧭 まとめ:見積もり精度を高めるには
テスト見積もりは、単なる数字合わせではなく、経験・データ・チーム連携の総合力が求められる作業です。
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工数・期間・コストのバランスを常に意識する
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不確定要素を考慮したバッファを設ける
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過去プロジェクトの失敗・成功から学ぶ
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チーム全員で透明性のある見積もりを行う
これらを意識することで、より現実的で信頼性の高いテスト見積もりが可能になります。

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