テストマネージャーとして最も重要なスキルのひとつが、明確で測定可能なテスト目的(Test Objectives)を定義することです。
この記事では、ISTQB Advanced Level Test Management(テストマネジメント上級)シラバスの**セクション1.4.3「Definition of Test Objectives」**をわかりやすく解説します。
🔍 テスト目的とは何か?
テスト目的(Test Objective)とは、テスト活動を通じて何を達成したいのかを明確に示すものです。
例えば:
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製品が特定の品質基準を満たしているかを確認する
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不具合の早期発見を目指す
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回帰テストで既存機能が影響を受けていないことを保証する
といったように、プロジェクトや組織の品質目標に基づき設定されます。
🗂 テスト計画との関係
テスト目的は、**テスト計画(Test Plan)**の中で定義されます。
一般的にテスト計画書には以下の項目が含まれます。
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テストスコープ(Test Scope)
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テスト目的(Test Objectives)
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終了条件(Exit Criteria)
テスト計画は大きく分けて以下の2種類があります。
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マスターテスト計画(Master Test Plan)
→ リリース全体をカバーする上位文書。
例:単体・結合・システムテスト全体をまとめた包括的計画。
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レベルテスト計画(Level Test Plan)
→ 特定レベルのテストに特化した計画。
例:性能テスト専用計画、セキュリティテスト専用計画など。
複雑なプロジェクトでは、パフォーマンス・セキュリティなどの重要領域のみ個別に計画書を作成することが推奨されます。
一方で、ドキュメント量を減らしたい場合はマスターテスト計画1本に統合しても構いません。
⚙️ アジャイル開発におけるテスト目的
アジャイルやハイブリッド開発では、スプリントやリリースごとに簡潔なテスト計画を立てることが一般的です。
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リリース全体の計画書(Release Test Plan)
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スプリント単位のテストスコープや成果の簡易報告(Iteration Test Plan)
たとえば「スプリント1での主要機能Aのテストカバレッジと欠陥数」を明示しておくことで、短期間でも目的を明確化できます。
🎯 SMARTゴールで効果的なテスト目的を設定する
ISTQBでは、SMARTゴールを活用してテスト目的を定義することを推奨しています。
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項目 |
意味 |
解説例 |
|---|---|---|
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S (Specific) |
具体的 |
曖昧でなく、明確な目的を設定する。「性能テストを実施する」ではなく、「1,000ユーザー同時アクセス時の応答時間を2秒以内に保つ」など。 |
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M (Measurable) |
測定可能 |
成果を数値で評価できるようにする。「バグを減らす」ではなく、「致命的なバグ発生率を0.5%以下に抑える」。 |
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A (Achievable) |
達成可能 |
リソース・期間・スキルに見合った目標であること。 |
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R (Relevant) |
関連性 |
プロジェクトやビジネスのゴールに直結していること。 |
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T (Timely) |
期限設定 |
明確な完了時期を設ける。例:「第3スプリント終了までにテスト完了」。 |
このSMARTフレームワークを使えば、チーム全体が「何を・いつまでに・どの程度達成するか」を共有できます。
🧩 テスト目的の具体例
以下は、実際のプロジェクトで設定される可能性のあるテスト目的の例です。
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品質保証系
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顧客からのクレーム件数を前リリース比で30%削減する。
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システム稼働率を99.9%以上に維持する。
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セキュリティテスト
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不正アクセスを検出・遮断するための認証機能テストを100%完了する。
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XMLデータをスキーマ定義(XSD)に基づいて検証し、悪意あるデータを確実に拒否する。
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パフォーマンステスト
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同時接続1,000ユーザー時に、平均応答時間を2秒以下に維持。
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メモリリークなしで24時間連続稼働を達成。
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回帰テスト
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コードリファクタリング後に新たな欠陥が発生していないことを回帰テストで確認する。
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ユーザビリティテスト
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ECサイトで「商品購入完了」までの平均操作時間を3分以内に短縮。
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これらの目的は、**「測定可能」かつ「達成状況を追跡できる」**点がポイントです。
🧠 専門家レビューの重要性
テスト目的は作成後に、ドメインエキスパートやステークホルダーによるレビューを受けることが重要です。
理由は以下の通りです:
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業界特有の品質基準(例:医療、航空、金融など)に準拠しているか確認するため
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実現可能性(環境・ツール・リソース面)を検証するため
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測定基準(メトリクス)が明確であるか判断するため
また、テスト環境の制約(複数環境の同時利用が困難など)も考慮して、現実的かつ達成可能なテスト目的を設定する必要があります。
✅ まとめ:明確な目的がテスト成功の鍵
テスト目的を明確に定義することで、次のような効果が得られます。
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チーム全体の方向性が揃う
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テスト成果が客観的に評価できる
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終了条件(Exit Criteria)が明確になり、「どこでテストを止めるか」が判断できる
つまり、「目的のないテスト」は「終わりのないテスト」になってしまうのです。
SMARTなテスト目的を定義し、プロジェクト成功へ導きましょう。

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