【ISTQB /JSTQB ALTM 3.0解説】テスト工数に影響を与える要因とは?ISTQB Test Management v3.0徹底解説

JSTQB Advanced Level Test Management 3.0

ISTQB Test Manager(テストマネージャ)認定試験の「Chapter 2:Managing the Product」では、テスト見積もり(Test Estimation)に関する重要なテーマが扱われています。

この記事では、その中でも特に重要な 「2.2.2 テスト工数に影響を与える要因(Factors Influencing Test Effort)」 について、具体例を交えてわかりやすく解説します。


🔍 テスト見積もりとは?

まず前提として、テスト見積もり(Test Estimation) とは、

「あるプロジェクトやリリース、またはイテレーションで、テストを完了するために必要な作業量(工数)を予測すること」です。

たとえば、テストマネージャは次のような判断を行います:

  • どのくらいのテストケースを準備すべきか

  • どのくらいの人員・期間が必要か

  • 自動化やツール導入によるコスト削減は見込めるか

これらを正確に見積もるためには、複数の要因(Factors) を考慮する必要があります。


🧩 テスト工数に影響を与える5つの主要要因

テスト工数に影響する要因は大きく以下の5つに分けられます。

  1. プロダクト要因(Product Factors)

  2. 開発プロセス要因(Development Process Factors)

  3. 人的要因(People Factors)

  4. テスト結果要因(Test Result Factors)

  5. コンテキスト要因(Test Context Factors)

それぞれ詳しく見ていきましょう。


① プロダクト要因(Product Factors)

テスト対象のプロダクト自体が、見積もりに直接影響を与えます。

たとえば次のような要素です:

  • テストベースの品質(要求仕様書の明確さ・完全さ)

  • プロダクトの規模(画面数、機能数、データ量など)

  • ドメインの複雑さ(医療、金融、自動車など)

  • 非機能要件(性能・セキュリティ・信頼性などの品質特性)

💡 具体例:

  • Eコマースサイトの場合:

    主な機能は「商品検索」「カート」「決済」「配送」。

    機能は多いが、ドメインリスクは比較的低い。

    → テスト工数は“中程度”。

  • **自動車の安全制御システム(Automotive Safety System)**の場合:

    命に関わるため、ISO 26262などの安全規格に厳密に準拠が必要。

    → ドキュメント量・レビュー回数・テストレベルが増え、工数は“数倍”に。

結論:

「何をテストするか」が変われば、必要な労力もまったく違うのです。


② 開発プロセス要因(Development Process Factors)

次に重要なのが、どのように開発しているかです。

つまり、採用している SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル) やツール環境などが影響します。

  • 開発モデルの種類(ウォーターフォール、アジャイルなど)

  • 組織の成熟度(プロセスの安定性・標準化)

  • ツール・自動化環境の有無(CI/CD、テスト自動化、テスト管理ツールなど)

💡 具体例:

  • ウォーターフォール開発

    テストは開発後に一括実施されるため、期間が短く集中する。

    → バッファが少なく、再テスト対応も含める必要あり。

  • アジャイル開発

    テスターはスプリントごとに参加し、自動化と継続的テストが前提。

    → 準備段階では工数が増えるが、長期的には効率化。


③ 人的要因(People Factors)

チームのスキル・経験・モチベーションも大きな影響を与えます。

  • チームメンバーのスキルレベル

  • 過去の類似プロジェクト経験

  • 休暇・祝日などの人的リソースの変動

  • メンバーの定着率やモチベーション

💡 具体例:

  • 経験豊富なQAエンジニアが多ければ、作業は早く正確。

  • しかし新人が多い場合、教育コストが増加し、見積もりは増加。

  • また、長期プロジェクトではメンバーの有給・体調不良も想定すべき。

結論:

「人はリソースではなく、変動する要素」。

テストマネージャは、チーム構成の変化を織り込んで見積もりを行う必要があります。


④ テスト結果要因(Test Result Factors)

意外に見落とされがちなのが、テスト結果そのものが工数に影響するという点です。

  • 発見される不具合(Defects)の数と重大度

  • 不具合修正後の再テスト(Retesting)・リグレッションテストの有無

  • バグトラッキング・報告作業の量

💡 具体例:

1つのテストケースが失敗した場合、次の作業が発生します:

  • 不具合報告(Defect Logging)

  • 修正確認(Retesting)

  • 影響範囲の再確認(Regression Testing)

結果として、1つの失敗テスト=約4倍の工数がかかることもあります。

つまり、不具合の多いプロジェクトほど見積もりは膨らむのです。


⑤ コンテキスト要因(Test Context Factors)

最後に重要なのが「コンテキスト(Context)」、つまりプロジェクトや組織の状況です。

  • チームの分散(オンサイト/オフショア)

  • 開発拠点数や時差の有無

  • 業界特有の規格やガイドライン

💡 具体例:

  • 自動車業界(Automotive):ISO 26262(安全性)準拠が必要

  • 金融業界:PCI DSS(セキュリティ基準)対応が必要

  • 医療分野:FDA認証やトレーサビリティ文書の維持が必須

このような規制・文化・チーム構造などの違いが、コミュニケーションコストやレビュー回数を増やし、結果的に工数を押し上げます。


🧮 テスト見積もりの精度を高めるポイント

  • 過去プロジェクトの**履歴データ(Historical Data)**を活用する

  • チームのスキル分布と休暇計画を考慮する

  • 失敗テスト時の再作業も見積もりに含める

  • プロダクトと開発モデルに応じて見積もりモデルを変える


✅ まとめ

要因カテゴリ

主な内容

工数への影響例

Product

規模・品質・ドメイン

大規模・安全性重視の製品ほど工数増

Process

SDLCモデル・ツール環境

自動化導入で初期工数増・長期削減

People

スキル・休暇・経験

経験不足・離脱リスクで工数増

Test Result

不具合数・再テスト

失敗テストは最大4倍の工数

Context

業界特性・拠点分散

法規制・時差で工数増加

💬 まとめのひとこと

テストマネージャが正確な見積もりを行うには、

「単なる数字合わせ」ではなく、全体の背景と影響要因を理解することが欠かせません。

プロジェクトの性質、チームの状態、そして品質目標。

これらを総合的に考慮して初めて、現実的で信頼できる見積もりができます。

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