テストマネージャーにとって、**「テスト報告(Test Reporting)」**は、プロジェクトの品質状況を正しく伝えるための重要な業務です。
ISTQB Test Management v3.0の章2.1.3では、この「テスト報告」におけるメトリクス(Metrics)の活用方法が詳しく解説されています。
この記事では、
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どんな種類のメトリクスを使えば良いのか
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各テストフェーズでの活用方法
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実務での報告のコツ
を、具体例を交えてわかりやすく解説します。
🎯 テストレポートの目的とは?
テストレポートの目的は、テストの進捗・品質・コストを「見える化」することです。
この情報をもとに、マネージャーやステークホルダーは「現状を正確に把握」し、「次の意思決定」を行います。
テストレポートには次のような特徴があります。
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スナップショット報告:特定の時点での状況を報告
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トレンド報告:時間の経過に伴う変化を報告(例:3スプリント分のバグ推移)
たとえばアジャイル開発では、スプリントごとに「前回よりバグが減っているか」「テスト完了率が上がっているか」などを可視化します。
このトレンド分析が、チームの改善サイクルに大きく役立ちます。
🧭 テストメトリクスの役割
**メトリクス(Metrics)**とは、「テスト活動を数値で表す指標」です。
ISTQBでは、次の5つの主要カテゴリに分類しています。
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カテゴリ |
目的 |
|---|---|
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① リスク関連メトリクス |
製品リスクのテスト状況を評価 |
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② 不具合(Defect)メトリクス |
欠陥の傾向や品質問題を特定 |
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③ テスト進捗メトリクス |
テスト作業の進行度を追跡 |
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④ カバレッジ(Coverage)メトリクス |
どこまでテストできたかを測定 |
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⑤ コスト・工数メトリクス |
実績と計画の差分を把握 |
これらの指標を組み合わせて、プロジェクト全体の健全性を判断します。
💡 各テストレベルに応じたメトリクスの使い分け
テストの種類によって、報告すべきメトリクスは異なります。
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低レベルテスト(ユニット・コンポーネントテスト)
→ コードカバレッジ、分岐カバレッジ、パスカバレッジなど構造的指標を重視。
例:全関数の80%以上を実行済みか?
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高レベルテスト(システム・受け入れテスト)
→ 要件カバレッジ、リスクカバレッジ、欠陥傾向などを重視。
例:顧客要求の95%がテストケースでカバーされているか?
つまり、**「どの段階で、何を測るか」**を正しく選ぶことが重要です。
📊 1. リスク関連メトリクス
目的: 製品リスクに対して、どの程度テストが完了しているかを示す。
主な指標
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全テスト合格済みのリスク割合
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一部または全テスト不合格のリスク割合
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まだ未テストのリスク割合
実例
たとえば「ログイン機能に関するリスク」が10件あり、そのうち8件のテストが合格していれば、
リスク合格率 = 80% です。
これにより、どの領域がまだ不安定かを特定できます。
🐞 2. 不具合(Defect)メトリクス
目的: バグの発生傾向や品質問題を可視化する。
主な指標
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累積発生バグ数 vs 修正済みバグ数
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不具合の種類別(新機能、回帰、要件起因など)内訳
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検出段階(単体、結合、受け入れ)別の欠陥率
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優先度・重大度別の欠陥分布
実例
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「受け入れテストでのバグ数が急増」
→ 要件レビュー段階での品質が不十分だった可能性。
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「修正済みバグ率が90%超」
→ リリース準備が整いつつあるサイン。
🚀 3. テスト進捗メトリクス
目的: テストの完了度を把握し、スケジュールを調整する。
主な指標
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テストケース数(計画・実施・完了・ブロック)
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実行済みテスト数の割合
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実施予定との乖離率
実例
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状況 |
テスト進捗率 |
コメント |
|---|---|---|
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計画100件中、80件実施済み |
80% |
進捗良好 |
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ただしブロックテスト10件あり |
実質70% |
環境問題あり、早急な対策が必要 |
🧩 4. カバレッジ(Coverage)メトリクス
目的: どの程度テストが行き届いているかを測る。
種類と例
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要件カバレッジ:全要件のうち、テストケースで検証済みの割合
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リスクカバレッジ:特定のリスクに対して実施されたテスト割合
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コードカバレッジ:実行されたソースコード部分の割合(例:ステートメント、分岐)
実例
「要件カバレッジが90%」
→ まだ10%の要件に対するテストケースが未作成。優先度を見直す必要あり。
💰 5. コスト・工数メトリクス
目的: 計画通りにリソースを使えているかを把握する。
主な指標
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計画工数 vs 実績工数
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テストコスト(計画費用と実績費用)
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残リスク・未テスト領域のコスト影響
実例
「テスト環境トラブルで追加20時間発生」
→ 翌プロジェクトでは環境安定化にリソースを確保する、といった改善判断が可能になります。
🧠 メトリクスの組み合わせで洞察を深める
メトリクスは単体ではなく、複合的に使うことで本当の意味が見えてきます。
例:
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「実行済みテスト数」と「未修正バグ数」を組み合わせることで、
テストの効率性や品質向上度を可視化。
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「要件あたりの欠陥数」から、要求定義フェーズの品質を評価。
🏁 テスト終了(Exit Criteria)の判断
メトリクスの最終的な役割は、**「テスト終了の判断」**をサポートすることです。
新しい欠陥がほとんど発生せず、すべての重要なリスクがテスト完了となった段階で、
「終了基準(Exit Criteria)」を満たしたと判断します。
例:
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重大度Aの欠陥が0件
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リスクカバレッジが100%
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テストケースの合格率が95%以上
これらの条件をもとに、テストマネージャーは正式にテスト完了を報告します。
✅ まとめ
テストレポートの本質は、単なる「数値の報告」ではなく、
**「現状を正しく伝え、次の意思決定を助ける」**ことにあります。
効果的なメトリクスの活用により、
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プロジェクトの健全性を維持し、
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品質改善のチャンスを見極め、
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経営層や顧客に信頼される報告ができるようになります。
💬 まとめのポイント
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メトリクスは「測ること」ではなく「活かすこと」が重要
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テストレベルごとに適切な指標を選ぶ
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トレンドとスナップショットを両方活用
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終了判断はメトリクスとExit Criteriaで行う

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