ソフトウェアテストにおいて「より効率的で品質の高いテストを実施する」ためには、
単にテストを繰り返すだけでなく、プロセス自体を改善していくことが欠かせません。
今回の記事では、**ISTQB Advanced Level Test Manager(テストマネージャ)**の
シラバス第1章「テスト活動のマネジメント」に登場する
**1.5 テストプロセス改善(Test Process Improvement)**の中から、
特に重要な「IDEALモデル」をわかりやすく紹介します。
🧩 テストプロセス改善とは?
まず、「テストプロセス改善」とは何でしょうか。
簡単に言うと、現在のテストのやり方を分析し、課題を見つけ、より良い方法に変えていく活動です。
例えばこんなケースがよくあります。
-
バグ報告の手順がチームごとにバラバラで、情報が共有されにくい
-
回帰テストに毎回時間がかかりすぎている
-
不具合の再現率が低く、原因調査に時間がかかる
こうした課題を放置すると、開発のスピードも品質も下がってしまいます。
だからこそ、定期的にプロセスを見直し、改善することが重要なのです。
⚙️ IDEALモデルとは?
テストプロセス改善の代表的なフレームワークが、IDEALモデルです。
IDEALは以下の5つのステップの頭文字から構成されています。
|
ステップ |
内容の概要 |
|---|---|
|
I – Initiating(開始) |
改善の目的と範囲を明確にする |
|
D – Diagnosing(診断) |
現状を分析し、問題点を特定する |
|
E – Establishing(計画) |
改善計画を立て、優先順位を決める |
|
A – Acting(実行) |
改善策を実施し、効果を測定する |
|
L – Learning(学習) |
成果と課題を振り返り、次の改善に活かす |
この流れは、品質管理の基本サイクルであるPDCA(Plan-Do-Check-Act)と似ていますが、
より組織的かつ継続的な改善活動に適しています。
🏁 ステップ1:Initiating(開始)
最初のステップでは、改善の目的・範囲を明確にします。
つまり、「なぜ改善するのか?何を改善したいのか?」をチーム全体で合意します。
🔍 例
-
「テストケースの重複を減らして工数を20%削減したい」
-
「レビュー漏れによるバグを半分に減らしたい」
この段階では、関係する**ステークホルダー(開発者、QAリーダー、PMなど)**を巻き込み、
改善による影響範囲や優先度を整理しておくことが大切です。
🔎 ステップ2:Diagnosing(診断)
次に、現状を分析して課題を洗い出します。
この段階では、例えば次のような方法を使います。
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テストレポートや欠陥データの分析
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レビュー記録・テスト実績表の確認
-
チームメンバーへのヒアリングやアンケート
🔍 例
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バグの60%が仕様理解不足に起因 → 「レビュー工程の見直しが必要」
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テスト環境構築に平均3日かかる → 「自動化や仮想環境導入を検討」
診断結果は、後の「改善計画(Establishing)」の基礎となります。
📝 ステップ3:Establishing(計画)
ここでは、改善のための具体的なアクションプランを作成します。
計画に含める項目の例
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改善目標(KPI)
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実施担当者・スケジュール
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必要なリソース(時間・予算・ツール)
-
効果測定方法(定量・定性の両面)
優先順位づけ(Prioritization)
すべての課題を一度に解決することはできません。
そこで、ROI(投資対効果)・リスク・プロジェクト戦略との整合性を考慮して、
最も影響の大きい改善項目から着手します。
🚀 ステップ4:Acting(実行)
計画を立てたら、実際に改善施策を実行します。
具体例
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自動テストツールの導入とトレーニングを実施
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テストレビューのチェックリストを作成し、運用開始
-
スプリントごとに振り返り会(Retrospective)を導入
実行の際は、**パイロットプロジェクト(試験導入)**を行い、
効果を確認してから全社展開するのが安全です。
また、**改善の効果を測るメトリクス(工数削減率、欠陥検出率など)**を記録しておくことで、
次の「学習」ステップで役立ちます。
💡 ステップ5:Learning(学習)
最後に、改善活動の結果を振り返るフェーズです。
チェックポイント
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期待した効果は得られたか?
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想定外の副作用はあったか?
-
今後も継続すべき改善はどれか?
この学びを次の改善サイクルへつなげることで、
**継続的なプロセス改善(Continuous Improvement)**が実現します。
🔍 例
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改善効果が大きかった活動を標準プロセスに組み込む
-
効果が出なかった施策は、原因を特定して再設計
🧠 IDEALモデルは組織にもチームにも使える
本来IDEALモデルは、組織全体の改善活動を支援するために設計されていますが、
チーム単位・プロジェクト単位でも適用可能です。
特にAgile開発では、スプリントごとのレトロスペクティブが
「Diagnosing」や「Learning」に相当します。
また、自動車業界の**Automotive SPICE (A-SPICE)**のように、
プロジェクト単位で改善を評価・認定する仕組みもあります。
✅ まとめ:IDEALモデルで“改善を習慣化”する
テストプロセス改善は「一度やって終わり」ではありません。
IDEALモデルを継続的に回すことで、組織やチームの成熟度を高めることができます。
IDEALの5ステップまとめ
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Initiating – 改善の目的と範囲を決める
-
Diagnosing – 現状を分析し、課題を発見する
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Establishing – 改善計画を立てる
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Acting – 改善策を実行する
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Learning – 成果を振り返り、次へつなげる
継続的な改善こそが、品質の高いソフトウェアと信頼できるテスト文化を生み出します。

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