テストマネージャーとして、プロジェクトの「テスト戦略」をどう立てるかは非常に重要なスキルです。
今回のテーマは 「1.4.1 テストアプローチの選択(Choosing a Test Approach)」。
ISTQB Advanced Level Test Managementのシラバスに基づき、テストアプローチの基本から現場での応用までをわかりやすく解説します。
🧭 テストアプローチとは何か?
テストアプローチ(Test Approach) とは、
「どのようにテストを実施するのか」を定義するプロジェクトレベルの方針・戦略のことです。
組織全体では、まず最上位に「テストポリシー(Test Policy)」があります。
これは、企業が「なぜテストを行うのか」「どんな品質方針を持っているのか」を定める文書です。
例えば:
-
製品品質を最優先する
-
セキュリティを最重要リスクとする
-
自動化テストを全製品ラインで導入する
など、企業全体のテスト哲学を示します。
次に、その下に位置するのが「テスト戦略(Test Strategy)」です。
これはプロジェクト単位で策定され、「どうやってテストするのか」 を具体的に記述します。
プロジェクトの性質・リスク・スケジュールなどに合わせて柔軟に作成される点が特徴です。
📘 テストポリシーとテスト戦略の関係
|
階層 |
文書名 |
内容の焦点 |
対象範囲 |
|---|---|---|---|
|
上位 |
テストポリシー(Test Policy) |
なぜテストを行うのか |
組織全体 |
|
中位 |
テスト戦略(Test Strategy) |
どうやってテストを行うのか |
プロジェクト単位 |
|
下位 |
テスト計画(Test Plan) |
何を・いつ・誰が行うのか |
実行フェーズ |
テスト戦略 は「方法(How)」を定義し、
テスト計画 は「実施内容(What)」を定義する、という違いを覚えておくと良いでしょう。
⚙️ テストアプローチを決める要素
テストアプローチを選択する際、次の要素を考慮します。
-
✅ テストレベル(ユニットテスト、統合テスト、システムテストなど)
-
✅ テストタイプ(機能テスト、性能テスト、セキュリティテストなど)
-
✅ テスト技法(ブラックボックス、ホワイトボックス、レビュー、静的解析など)
-
✅ 使用ツール・リソース・スケジュール
理論的には、どのテストレベルにもどのテストタイプ・技法を適用することが可能ですが、
現実的には、最も効率的・効果的な組み合わせを選ぶことが重要です。
💡 実践例①:メンテナビリティ(保守性)のテスト
「コードのメンテナンス性」を確認したい場合、
後工程(システムテスト後)で行うのは非効率です。
代わりに、静的解析やコードレビューの段階でチェックすることで、
早期に改善点を発見し、修正コストを削減できます。
つまり、「どの段階で、どの技法を適用するか」によって
テストの効率性と有効性が大きく変わります。
💡 実践例②:セキュリティテストの早期実施
セキュリティチームが開発後に脆弱性を指摘しても、修正には大きな工数がかかります。
そこで、設計段階やコーディング段階からセキュリティレビューや静的解析を行い、
「安全なコード設計」を促すことで再作業を減らします。
こうした「早期介入(Shift Left Testing)」の発想は、
テストマネージャーが戦略を立てるうえで極めて重要です。
⚖️ 組み合わせと最適化の重要性
テストアプローチを効果的にするためには、
次のような「適切な組み合わせ」が求められます。
-
✅ 適切なテストレベル × 適切なテストタイプ
-
✅ 静的テスト × 動的テストのバランス
-
✅ 自動化 × 手動テストの最適配分
例えば、性能テストは単体ではなく、システムテストレベルで行う方が
コンポーネント間の連携を含めた実際の挙動を検証できます。
一方、ユーザー受け入れテストでは、エンドユーザーと協力して
手動での探索的テストを行うことで、実用性を確認するのが効果的です。
🏗️ テストアプローチに影響する要因
プロジェクト単位で最適なテスト戦略を作る際には、
次のような外部・内部要因にも注意が必要です。
-
🔹 組織のテストポリシー
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🔹 業界標準(例:ISO 26262, Automotive SPICEなど)
-
🔹 顧客要件や契約条件
-
🔹 使用しているSDLCモデル(アジャイル/V字モデルなど)
例えば、自動車業界のプロジェクトでは、
ISO 26262(機能安全)やASPICE(プロセス改善)の要求に合わせて
テストアプローチを定義しなければなりません。
🎯 まとめ:テストマネージャーの役割
効果的なテストアプローチを選ぶとは、単なる手順書を作ることではありません。
テストマネージャーは、以下を意識して戦略を立てる必要があります。
-
✔️ 最適なテストレベル・タイプ・技法の組み合わせを見極める
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✔️ コストと効果のバランスを取る
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✔️ 組織方針や標準に整合させる
-
✔️ チームメンバーやステークホルダーに明確に伝える
最終的には、「効果的で効率的なテストを実現する戦略設計」こそが、
優れたテストマネージャーの証です。

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